2011年3月30日水曜日
最新原発なら福島事故は無い?
● 福島第一原子力発電所で冷却作戦を展開、破壊された4号機に放水する防護服の作業員たち(3月22日撮影)。
新しい世代の原発設計では電源喪失時の冷却に「受動的安全システム」を採用しているが、まだ実際の運用数は少ない。
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ナショナルジオグラフィック 2011年03月25日 18時9分
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20110324001
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20110324002&expand#title
最新原発なら福島事故は無い?
近年、世界的に原子力利用の拡大機運が高まっていたが、福島第一原子力発電所の危機によって重大な疑問が突きつけられている。
日本最古の原発でオーバーヒートの原因となった
電源喪失を、新型原子炉は切り抜けられるだろうか?
必ずしも楽観視できないのが実情のようだ。
原子力業界では既に、「受動的安全(パッシブセーフティ)システム」を搭載した第三世代の原子炉を開発している。
日本で起きたような事態にも対応できるシステムだ。
今までは、放射性燃料と使用済み燃料の冷却に欠かせない水をポンプで汲み上げるため、電力を全喪失すると危機的状況に直結する。
しかし、最新世代の設計を採用している原発は、世界で建設中の65基のうちわずか4基にすぎない(アメリカのジョージア州、サウスカロライナ州にある敷地造成中や規制認可待ちの4カ所を加えると、69基中8基になる)。
残りの大部分の47基は未だ“第2世代”の設計で、福島第一と同じく1970年代の思想を受け継いでおり、統合的な受動的安全システムを採用していない。
原子力関係者は、当初からこのシステムが採用されていなくても、既存の原子炉や建設中の設計図に同様の改良を加えていると指摘する。
アメリカの業界団体、原子力エネルギー協会(NEI)によると、例えばカリフォルニア州南部沿岸にあるサンオノフレ原子力発電所では、電源喪失時に一時的に「重力駆動型システム」を使って冷却水を循環できるように改良を加えたという。
だが、改良にも限界がある。NEIの戦略計画責任者エイドリアン・ヘイマー氏は、
「地震が起きたら大量の水タンクに問題が発生する可能性がある。
設計初期段階から完全な受動的安全システムを統合するように取り組みを進めてきた」
と話す。
稼働中の原発で、重力駆動型などのセーフティ機能を導入済みかどうかまとめられた資料はない。
計画段階、または建設中の発電所についても、統合的な受動的安全システムの採用は遅れている。
原発の建設は、立地調査、政府認可に始まって、資金調達、設計・完工まで数十年かかる場合が通常だ。
トレンドが目まぐるしく変わるハイテクの世界と違って、一度方向性が定まると変更は極めて困難な世界だ。
稼働中の原発の大部分は、
30~40年前に確立した基礎技術をもとに建設されている。
◆ジェネレーション・ギャップ
福島第一では原子炉6基のうち5基がゼネラル・エレクトリック社(GE)製のBWR-3(沸騰水型原子炉)型で、Mark 1型格納容器を採用している。
現役の発電所のうちGEの沸騰水型原子炉は92基、Mark 1は32基が採用している。
業界、規制当局双方で共通の「開発世代」分類に従えば福島第一は、原発開発で並び立つアメリカやフランスの大部分と同様に“第2世代”に当たる。
ロンドンに本拠を置く業界団体の世界原子力協会(WNA)によると、第1世代は1950~60年代に開発された。
この世代をまだ運用しているのはイギリスだけで、北ウェールズのウィルファ原子力発電所がその1例だ。
ヘイマー氏によると、1979年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、原発設計についてリスクと安全性の再評価が行われたという。
「すべての電源を失ったらどうするか?
核燃料が損傷する前に動力源を回復する必要がある」
とヘイマー氏は言う。
福島第一の冷却システムの問題を踏まえると、重力を利用して圧力容器に冷却水を送り込む方法が効果的だろう。
家屋の屋上に設置された貯水タンクのイメージに近い。
蛇口をひねると、重力によって水が下に流れ、パイプを通ってキッチン・シンクに出る。
原子炉の場合はその後、炉心で空気と水が加熱され、パイプを通して熱交換器に送り込まれる。
福島第一と同じ旧世代のシステムで冷却システムが失われた場合について、ヘイマー氏は次のように述べる。
「電力系統が失われるとすべての設備がゆっくりと停止に追い込まれる。
受動的安全システムがあれば、一連のバッテリーに再充電できる発電機を手当てして、炉心に冷却水を送り込む時間を稼げる可能性がある」。
◆テクノロジーの“スロー”な進化
第3世代の設計には、受動的安全システムや「固有の安全性(自己制御性)システム」が導入されるようになった。
しかし、世界で運用中の442の原子炉のうち、第3世代は15基のみである(日本と韓国各4基、カナダ、中国、ルーマニア各2基、アルゼンチン1基)。
また、日本、中国、台湾、韓国、フィンランド、フランス、ロシアで14 基の建設が進む。
NEIの資料によると、運用中の第3世代原子炉は1982~2007年に運転が開始されている。
必ずしも最先端の原子力技術とは言えないのだ。
米国エネルギー省の分類によると、その次の進化形は“第3世代プラス”と呼ばれ、事故発生時には完全に受動的安全システムへ依存する設計となっている。
原子炉に絶えず必要な“冷却機能”という課題に対処するため、電力線やディーゼル発電機、予備バッテリーの代わりに、重力、自然対流、伝導などの活用が主な戦略として浮上した。
WNAの資料では、
「受動的安全システムは、機器類の復旧や補助電源、作業員の制御に頼るのではなく、“物理現象のみ”に依存する」
と説明されている。
「交流電源や外部冷却水がなくても少なくとも72時間は動作可能で、完全に機能する受動的安全性を備えた設計だ」
とヘイマー氏は説明する。
現在で、世界初の第3世代プラス原子炉4基の建設が中国で進んでいる。
東部の浙江省で2013年に稼動予定の三門原子力発電所もその1つだ。
アメリカでも、 4基が敷地造成の段階にある。
ジョージア州ウェーンズバロ近郊にあるサザンカンパニー社のボグトル原子力発電所の2基と、サウスカロライナ州ジェンキンスビル近郊にあるサウスカロライナ・エレクトリック&ガス社のバージル・C・サマー原子力発電所の2基である。
8基の
第3世代プラス原子炉はすべてウェスティングハウス社設計の「AP1000」型
で、非常時には冷たい外気を鋼製格納容器の周囲に循環させ、容器上方に設置されたタンクから水を重力落下させる。
ウェスティングハウス社広報のスコット・ショー氏によると、最長72時間冷却可能という。
その後、小型のディーゼル発電機が電気を供給、施設内の貯蔵容器から炉心と使用済み燃料プールへ毎分約380リットルの水を最長4日間送り込む。
「わが社はこのAP1000で第2世代から第3世代プラスへと一気に進化した」
とショー氏は胸を張る。
◆電源喪失への備え
アメリカの科学者団体、憂慮する科学者同盟(UCS)の原子力安全プログラム(Nuclear Safety Program)責任者を務めるデイビッド・ロッシュバウム(David Lochbaum)氏は、
「受動的安全(パッシブセーフティ)システムがあれば作業員が状況に対処する時間が延びるだろう。
時間を稼げるほど困難を克服できる可能性も高まる」
と述べる。
だがUCSでは通常の冷却システムが72時間以上故障し続ける状況を懸念している。
「送水を回復し炉心に補充するという根本的な問題は未解決だ。福島でも72時間あれば対応の余地が増えたかもしれないが、それでも十分ではなかっただろう」。
しかし、ヘイマー氏は、
「消防車やポンプで水をシステムに補充できる」
と主張する。
(このアプローチは第2世代の福島第一では効果が限られる。
冷却システムは発電所独自のポンプ装置の正常運転に依存しているからだ)
別の第3世代プラスの原子炉設計としては、
GE日立ニュークリア・エナジー社のESBWR(高経済性・単純化沸騰水型原子炉)が挙げられる。
ESBWRは炉心を冷却水で覆い続けるために自然循環型の重力駆動システムを採用している。
「アメリカで9カ月後には認可が下りる見込みだった。
日本の地震と津波が起きるまでは」
とヘイマー氏は話す。
地震発生2日前の3月9日、アメリカの原子力規制委員会(NRC)はESBWRに関する最終安全評価書と最終設計承認を発行した。
だが、この決定内容が秋までに発効する目処は立っていない。
福島第一で進行中の危機を考えると、スケジュールを予測するのは難しいという。
GE日立の広報担当マイケル・テツアン氏は、
「秋にはNRCから最終的な認証が得られると期待している。
当社にとっては受動的安全性を備えた初めての設計だ」
と話す。
テツアン氏によると、ESBWRはインド政府が計画中の原子炉2基のうち1基で建設予定(規制当局の承認待ち)の段階にある。
「もう1基はウェスティングハウス社が受注した」
と同氏。
アメリカでは電力会社デトロイト・エジソンが2008年、エリー湖岸のエンリコ・フェルミ原子力発電所2号機にGE社の ESBWRを採用している。
福島第一のバックアップ・システムは津波に耐えられなかったが、GE社のESBWRやウェスティングハウス社のAP1000なら対処できるとヘイマー氏は考えている。
「動的機器には依存していない。
福島第一の作業員はいくつものバルブ(弁)を制御しなければならないが、2、3個のバルブで済む」
と同氏は述べる。
事故発生時にウラン燃料が溶融する可能性の指標「炉心損傷頻度」に基づくと、
「あくまでも当局の認可が下りた場合の話だが、最新の受動的安全システム設計なら、沸騰水型原子炉の安全性は従来の10~100倍に高まる」
とヘイマー氏は説明する。
◆圧力の放出
だが、多数の第2世代が現役で建設も行われている現実に、規制当局や事業者は旧設計の安全性を高める改良方法に注目している。
NRCのグレゴリー・B・ジャツコ委員長は今月、アメリカ上院の環境公共事業委員会の公聴会で、原子炉を最新の状態に保つプロセスについて、
「20年経過した航空機のシステムを、問題点を把握しながら更新、改良していくプロセス」
になぞらえた。
例えば、福島第一と同型のアメリカ国内の沸騰水型原子炉ではすべて、1990年代以降、ベントの配管を耐圧強化している。
ベントは格納容器から蒸気や圧力を“大気中に直接”放出するダクトで、放射性物質を除去するフィルターが付いている。
さらに従来設計では、原子炉建屋に配管が出ているため建屋内に水素が溜まりやすかった。
NEIは現在、福島第一のベントについて日本当局から明確な答えを得ようと奮闘している。
「さまざまな事態の対処に追われ、われわれに情報提供できる状況ではないかもしれない。
だが、原子炉6基のうち4基で爆発が起きたことから、建屋内に水素が溜まっていたと考えられる」
とヘイマー氏は話す。
◆クエンチャー、デフレクター、サドル
Mark 1型格納容器の安全性に対する懸念が高まる中、GE社は3月16日、
「40年前の技術は進化を続けてきた」
と強調する文書を発表した。
1例が“クエンチャー”システムだ。
沸騰水型原子炉で格納容器下部にある大きなドーナツ型のサプレッション・チェンバー(圧力抑制室)内の圧力を低減するために考案された。
チェンバー内の水に水蒸気の泡を送り込み、熱の除去を助ける。
大きな泡を小さな泡に分解し、迅速な凝縮により圧力を下げるという。
チェンバーには“デフレクター”も設置した。
水蒸気が吹き込まれ水位が上がるときに発生する圧力波を分散させる狙いがある。
さらに、チェンバー下部の脚のような構造物“サドル”も強化したという。
NRCはMark 1を採用するアメリカ国内のすべての原子炉で、このチェンバーの補強策とベントの改良を実施するよう求めた。
AFP通信によると、GE社のテツアン氏は、
「海外の顧客にもこの情報を周知しているが、実際に改良したかどうかは言えない」
と述べている。
◆教訓は生かされるか?
UCSで核エネルギー・気候変動プロジェクトの責任者を務めるエレン・バンコ(Ellen Vancko)氏は、
「まだ全体像は見えないが、今回の事故からたくさんの教訓が得られるだろう」
と述べる。
福島第一では安全手順に違反していたのか。
それとも、従っていたが役立たなかったのか。
「いずれにしろ、緊急時に正しい対応をとれるよう、安全手順を強化する必要がある。
あるいは、新しく作り出さなければならない」
と、同じくUCSのロッシュバウム氏は語っている。
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== 東日本大震災 ==
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