2011年3月31日木曜日

福島原発、復旧のシナリオ

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● 福島第1原発復旧シナリオ: SANKEI Biz より




SANKEI Biz 2011.3.30 21:00
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/110330/cpb1103302102007-n1.htm

【放射能漏れ】原発安定3つのシナリオ 最短で1カ月以上 最悪なら数年

 東日本大震災で深刻な被害を受けた東京電力福島第1原子力発電所は、「安定」状態を取り戻す復旧作業の長期化が避けられない状況だ。
 第1段階である大量の汚染水の排水・回収が難航。
 その後も循環・冷却システムの復旧など「いくつもの高いハードル」(経済産業省原子力安全・保安院)が待ち構える。
 専門家からは、最短でも1~数カ月、最悪なら数年の時間を要するとの見方も出ている。
 さらに廃炉処理によって「安全」と「安心」を取り戻すには、10年以上の長期戦を覚悟する必要があるとの指摘も出ている。

■シナリオ1

 原子炉の温度を100度以下の「冷温停止」状態にできるかの最大のポイントは、震災と津波による電源喪失で失われた「冷やす」機能の復旧だ。
 震災時に制御棒が装填され、核分裂は止まったが、炉心の燃料棒内の放射性物質は安定した物質に変化する過程で「崩壊熱」を出し続ける。

 現在はプルトニウムが漏れ出す2700度以上の高熱になり、一部溶融した燃料棒を冷やすため、仮設ポンプによる注水を続けている。
 だが、注水は応急処置にすぎず、水はすぐに蒸発してしまう。

 冷温停止には、「残留熱除去システム」と呼ばれる原子炉内の水を循環させ、高温となった水を外から海水との熱交換で冷やすシステムを再稼働させることが不可欠だ。
 緊急停止後に正常にシステムが作動すれば、2日程度で冷温停止になる。

 東電や保安院内には当初、
 「システム再稼働まで1カ月以内」
との期待もあった。
 だが、現在は汚染水に阻まれ、原子炉建屋内にある配管やポンプ、熱交換装置の故障の有無も確認できない状態で、そのシナリオは遠のきつつある。

■シナリオ2

 1~3号機は、原子炉内の高濃度の放射性物質を含んだ水が、原子炉格納容器や配管、バルブなどの損傷で外部に漏れ出しているとみられ、循環・冷却システムも損傷している可能性が高い。
 汚染水は強い放射線を放出しており、修理や交換は困難だ。保安院でも「(損傷場所を迂回し)別のルートを使う」とし、代替ルートを検討している。

 「ビルの屋上にあるクーリングタワー(エアコン室外機)のようなものを持ち込むなど、仮設の配管と熱交換装置で循環・冷却システムを構築できる」と指摘するのは、元東芝研究員の奈良林直北海道大教授(原子炉工学)だ。

 放射線量の高い厳しい環境での作業となり、奈良林教授は
 「放射線を遮る鉄板やコンクリートのついたてを設置して道を作り、鉛の入った防護服と併用して安全を確保した上で、作業員が交代しながら工事を行うしかない」
と話す。

 米スリーマイル島の原発事故処理では、冷温停止後に燃料棒を取り出す際に同様の方法をとっており、ノウハウはあるというが、作業は数カ月に及ぶ可能性がある。

■シナリオ3

 水素爆発などによる損傷が激しく、循環・冷却システムが復旧不能な事態も想定しておかなければならない。
 注水だけで核燃料を冷やさざるを得なくなった場合、どれだけの時間がかかるのか。京都大の宇根崎博信教授(原子力工学)は、
 「1年後には崩壊熱は現在の5分の1程度にまで小さくなる」
と指摘。そうなれば、原子炉を満水にして、蒸発で減った分だけ水を補給する安定的な冷却が可能になるとみる。

 だが、
 「本当の安定までには、そこから数年をみなければならない」(宇根崎教授)。
原子炉の除染や解体などによる処理が始まるのはそこからだ。

 復旧が長引けば、その間、水蒸気や水とともに放射性物質の漏出が続く。
 総力を挙げた復旧に加え、長期化も視野に入れた対策が急務だ。




毎日.jp 毎日新聞 2011年3月31日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110331ddm003040108000c.html

東日本大震災:福島第1原発事故 沸騰水型、構造裏目に 炉心底部に多数の配管




 東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発の原子炉は、「沸騰水型軽水炉(BWR)」と呼ばれる。
 国内の商用炉の6割を占めるが、今回の事故によって起きた大量の放射性物質の放出や汚染水の問題は、この構造が裏目に出た可能性がある。
 核燃料が過熱によって損傷し、核燃料を厳重に閉じ込めるはずの「原子炉圧力容器」の底部から外部に漏れ出していると関係者は見ている。

 二ノ方寿(ひさし)・東京工業大教授(炉心安全性)によると、福島第1の原子炉は、水滴を含んだ蒸気を乾かす装置が圧力容器(高さ約22メートル)の上部にあるため、燃料棒の核分裂反応を止める制御棒は容器の底から通す構造になっている。

 圧力容器は厚さ約16センチの鋼鉄でできているが、底部には制御棒や中性子計測管を貫通させる100本以上の配管がある。

 一方、商用原子炉のもう一つの型「加圧水型(PWR)」は、制御棒を上から差し込む構造だ。

 現在、福島第1で発生している高濃度の汚染水や放射性物質は、圧力容器の底から漏れ出したものだと専門家は見る。

 ◇核燃料、溶接部から漏出か

 奈良林直・北海道大教授(原子炉工学)は2号機について
 「溶け落ちた高温の燃料が、配管の表面や溶接部分を溶かして穴を開け、管内を伝わって少しずつ格納容器内に漏れ落ちたのではないか」
と推測する。
 小林圭二・元京大原子炉実験所講師も
 「損傷しているとすれば底の部分だろう。
 貫通部の溶接部分が損傷して隙間(すきま)ができ、ここから漏れている可能性が高い」
と指摘する。

 国側も圧力容器の損傷の可能性を考えている。

 経済産業省原子力安全・保安院は30日の会見で、1~3号機の汚染水の起源について
 「圧力容器内で燃料棒が損傷してできた核分裂生成物が圧力容器の弁や管、(容器の底にある)制御棒の入り口とか弱いところから格納容器に出て、さらに漏れ出たと推測する」
と話した。
 原子力安全委員会の代谷誠治委員も30日の会見で
 「1~3号機は圧力容器内が高温なのに圧力が上がっていない。
 程度の差はあれ、圧力容器に損傷がある可能性は高い」
と指摘した。

 本来なら、燃料棒を冷やすための注水によって大量の水蒸気が発生し、炉内の圧力は高まるはずだからだ。

 これに対して東電は
 「水が外に出ているのは確かだが、どういう壊れ方か想定できない。
 大きく穴が開いているわけではない」
と、圧力容器の損傷を明確には認めていない。

 1時間当たり1000ミリシーベルト以上と、極めて高い放射能を帯びた汚染水が大量に見つかった2号機では、2度にわたって圧力容器内が空だきになり、燃料棒が露出。燃料の壊れ方が1~6号機で最も大きいと考えられる。

 さらに、圧力容器を納めた格納容器の一部「圧力抑制プール」付近で15日に爆発音があり、同プールの破損が懸念されている。
 こうした状況で、燃料の破片を含む水が直接、同プールの穴から外部に流出した可能性がある。

 2号機同様、圧力容器と格納容器内の圧力がほぼ等しくなっている3号機でも、同様の仕組みで燃料が漏れ出ている可能性は否めない。

 原発で起こりうる重大事故については、配管から核燃料が漏れる可能性が国際会議で議論されたこともあり、配管や溶接部分のもろさはBWRの弱点と言える。
 二ノ方教授も
 「炉心が溶ける恐れがある場合、下部に貫通部分がある構造は弱みになる」
という。

 しかし奈良林教授は
 「今回はその弱点が安全弁的な役割を果たしている可能性がある」
とみる。
 燃料が漏れ出るにしても、少しずつ出ることによって、圧力容器の底が一気に抜けて大量の核燃料が格納容器内の水と反応し水蒸気爆発を起こす「最悪のシナリオ」が避けられるからだ。
 仮に水蒸気爆発が起きれば、これまで以上に大量の放射性物質が飛び散って周囲に近付けなくなり、原子炉の冷却ができなくなる恐れがある。

 福島第1の各原子炉では核燃料の冷却が進められている。

 奈良林教授は
 「現在は収束に向かい始めるまでの最終段階。
 汚染水が海に漏れないよう対策を施し、さらに安定的に炉心を冷却できるシステムが確立できれば、
 半年から1年の間に冷却を終えられるだろう」
と予測する。



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 ■ことば
 ◇日本の商用原子炉の型

 沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)がある。
 BWRは燃料の核分裂で発生する熱で冷却水を沸騰させ、蒸気を隣接する建屋に送ってタービンを回す。
 PWRは炉内の圧力を高めて1次冷却水の沸騰を抑え、その熱を2次冷却水に伝えて蒸気を作りタービンを回す。
 これにより、放射能を帯びた水は格納容器内に閉じ込められる。
 世界全体ではPWRが多く、79年に事故を起こした米スリーマイル島原発もPWR。
 国内では6割弱がBWRだ。



● 放射能封じ込めと沈静化策






== 東日本大震災 == 



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