2011年3月30日水曜日

福島原発、危機は回避できるか?(03/16)


● 煙が上がる福島第一原子力発電所(衛星画像)。
  3月14日、原子炉建屋の天井を吹き飛ばした2度目の水素爆発後に撮影された。
  原子炉3基で冷却機能が停止し、燃料棒の露出で炉心溶融の危機が高まっている。



ナショナルジオグラフィック ニュース March 16, 2011
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http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20110315003&expand#title

福島原発、危機は回避できるか?

 3月11日の東北地方太平洋沖地震により、福島第一原子力発電所で爆発事故が発生。
 首都圏を事業地域とする東京電力は沈静化に努めているが、地震リスクが想定をはるかに超える可能性は4年前の時点で既に警告されていた。
 現在、6基中3基の原子炉プラントで、炉心溶融回避に向けて全力が注がれている。
 14日午前に起きた2度目の水素爆発からは、予断を許さない状況が明らかになった。

 東京電力は2007年に1度、柏崎刈羽原子力発電所で危機回避に成功している。
 当時、この世界最大の原発は想定の3倍に当たるマグニチュード6.8の新潟県中越沖地震に被災した。

 世界の原子力産業では地震規模のリスク過小評価をきっかけに懸念が広がり、調査が一斉に開始されたが、東京電力はむしろ原子力発電所の優れた耐震性を強調した。
 重要な安全システムが正常に機能していたからだ。
 しかし、アメリカのワシントンD.C.に拠点を置くエネルギー環境研究所(IEER)の所長アージュン・マキジャニ博士は、「ラッキーだっただけ」と結論付けている。

 いずれにせよ、東京電力の「地震リスク評価」はあらためて厳しい目にさらされることになる。

◆リスクの尺度

 福島第一原発では、冷却機能の停止により核燃料の一部が既に溶け始めている可能性があるが、確認はできていない。
 しかし地震の尺度のうち少なくとも1つが、確実に危険信号を発している。
 11日の地震で記録された震源地の最大地動加速度(振動)が、第一原発の想定の2倍に達していたのだ。

 米国原子力エネルギー協会(NEI)の資料によると、福島第一原発は0.18Gを想定していたが、今回の地震は172キロ離れた震源地で0.35Gを記録したという。

 ただし、結論を出すのは、発電所での実測値が発表されてからでも遅くない。
 揺れの測定値はわずかな距離の違いでも大きく異なる場合があるという。
 NEI の広報担当者ミッチ・シンガー氏は、
 「今回は地震そのものより津波の被害が大きかった
と言う。
 冷却機能の作動に欠かせない非常用ディーゼル発電機を止めてしまったからだ。
 「マグニチュード9.0の地震が起きても原子炉の構造は完全性を保っていた。
 津波で発電機が止まるまでは、全システムが正常に機能していたんだ」。

 事故要因から地震を外すのは早すぎるとの意見もある。
 前出のマキジャニ博士は、
 「確かにほとんどのダメージを津波がもたらした可能性はある。
 しかし発電機の停止原因は現時点では誰にもわからない。
 振動が犯人の可能性もまだ残されている」
と指摘する。

 14日午前に3号機で発生した水素爆発は、原子炉建屋の天井を吹き飛ばした。
 2日前に同様の爆発が1号機でも起こっている。
 2号機は冷却機能を完全に喪失、原子炉内の水位が低下し、燃料棒が完全露出の状態に至ったという。
 この状態が続くと燃料棒の温度が上昇して溶融する可能性がある。

 放射能の測定値から判断して、溶融は既に始まっていると見る専門家もいる。
 しかし国際原子力機関(IAEA)は、
 「原子炉の格納容器に損傷はなく、放射能漏れは起きていない」
と強調する。
 約60キロ離れた福島第二原発も最初こそ電源スイッチが浸水して冷却機能が麻痺したが、その後は安定を保っている様子だ。

 現在は第一原発半径20キロ圏内からの避難指示が出ており、住民18万人以上が退去している。
 政府は予防対策として23万セットの安定ヨウ素剤を避難所に配布した。
 ヨウ素の事前摂取には被曝者の甲状腺癌(がん)発病を防ぐ効果がある。

◆冷却の失敗

 日本の電力供給の3割は、1966年以降に建設された54基の原子力発電所に依存している。
 3月11日の地震と津波の発生以後は、約11基の原発が停止している。
 業界筋によると、福島第一原発も含めて
 すべて設計通りに作動し、核分裂反応が自動的に停止した
という。

 第一原発事故は、核燃料が発する崩壊熱処理の不手際が原因との指摘もある。
 燃料は、核反応の停止後も持続的に冷却しなければならない。

 核燃料を冷却するには、モーターとポンプから成る冷却システムに電力を安定供給する必要がある。
 通常は、地震発生後に停電しても機能を維持できるよう、原発にはバッテリー・システムと非常用ディーゼル発電機が備え付けられている。
 しかし第一原発の場合は、地震と津波の発生後すぐに発電機が停止し、バッテリーもわずか数時間しか保たなかった。
 代替システムが現場に急送されたが、冷却用真水の調達にも障害が生じていた。
 そこで東京電力はホウ酸を添加した海水の注入に踏み切った。
 ホウ酸には核分裂反応を抑制する効果があるが、前例のない措置だという。

 非営利の米電力中央研究所(EPRI)で原子力担当副所長を務めるニール・ウィルムシャースト氏は、
 「福島原発の設計と想定していた地震リスクについては、これから確認して精査しなければならない」
との認識を示した。

◆地震リスクの想定

 2007年の新潟県中越沖地震の際には、EPRIの専門家を始め多くの科学者や技術者が柏崎刈羽原子力発電所を訪れ影響を調査した。

 当時は、マグニチュード6.8の地震発生後に変圧器火災が発生。
 消火システムの一部に支障を来し、配管や排気ダクトも損傷を受けたという。

 このとき、設計段階の想定をはるかに超える地震が起きたことから、原子力発電所の地震リスクを調査する機運が世界的に高まった。
 国際原子力機関(IAEA)も現地調査に乗り出し、調査結果を発表して意見交換する場を設けている。
 IAEAの報告書には、
 「新しい核施設の地震リスクは、古い施設と比べて大幅に高く設定されている」
との記述があった。
 1980年代半ばに運転を開始した柏崎刈羽原発に対し、1970年代初頭の福島第一原発は10年以上も古い核施設である。

 2007年の地震発生以来、東京電力は耐震補強の取り組みと完全性の試験を続けており、柏崎刈羽原発の7基中3基の原子炉はいまだ運転再開に至っていない。
 実は、この3月中に次の運転再開が予定されていたという。

 専門家によると、2007年の事故には明るいニュースもあった。
 「システムの損傷が最小限に抑えられ、原子炉も安全に保たれていた。
 リスクを高めに設定し、安全を最優先して原子炉が設計されていた証拠だ」
とEPRIのウィルムシャースト氏は指摘する。

 福島第一原発でも同じレベルの安全性が期待されるが、実際はどうなのだろう。
 ウィルムシャースト氏の見立てでは、放射能の測定値から判断して、ジルコニウムなどの金属から成る「燃料被覆管」には亀裂が入っている可能性が高い。
 しかし鋼鉄製の「原子炉圧力容器」とその関連システム、および鉄筋コンクリート製の「原子炉格納容器」にダメージは無いようだ。
 最外部の「原子炉建屋」は水素爆発で天井が吹き飛んでいる。
 肝心のウラン燃料は、融点を上げるために焼き固められた「燃料ペレット」に加工され被覆管内部に詰められている。
 以上「5重の壁」が放射能漏れを阻むはずだった

 ウィルムシャースト氏は最後に、次のようにコメントした。
 「未曾有の危機と言っていい。
 日本に限らず世界が注目しており、一日も早い事態の収束を願っている」。







== 東日本大震災 == 



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